番外編:カタナブランドをヒモ解く
2019年に発売となったカタナに二輪業界は大きく揺れた。それはカタナが歴史あるブランドだからだけでなく、バイク史のなかで燦然と輝く名車だからである。ここでは、カタナがどんなブランドなのかに迫ろう。
ハイスペックモデルに与えられし称号
80年秋、西ドイツ(現ドイツ)で開催されたケルンショーにてその姿を初めて見せたスズキ・GSX1100Sカタナは、来場した人々のど肝を抜くに十分な斬新なスタイルをしていた。その様相を一種独特の香りとオーラを放っていたと当時の海外バイク誌は伝えている。
このファーストカタナ、ネーミングのとおり刀をモチーフとした高いオリジナリティを持ったスタイリングに目が行きがちだけれど、じつは走行性能の高さも突出していたのだ。ベースとなったのは当時スズキのフラッグシップモデルだったGSX1100E。そのパフォーマンスをさらにスープアップしていたのだ。国内初となる試乗会が81年2月に竜洋コースで行なわれたのだが、その際にスズキの技術者は「(GSX1100Eを)さらに上回る性能と足まわりになっています。十二分に楽しんでください」といって試乗者をコースに送り出している。そう、それほどに作り手も自信を持って世に送り出したスポーツモデルだったのだ。
中型限定免許でも乗れるカタナも登場
そのインパクトの大きいスタイリングゆえ、マンガやドラマにも登場する話題性の高いモデルだったけれど、免許制度と逆輸入の壁があって1100は当時高値の花だった。その後国内向けのモデルも発売され、82年には750が、90年代に入ると中型限定免許(今の普通二輪免許)ライダーにも手が届く400と250がラインナップに加わりカタナブランドは広がりを見せる。
その後も、高いオリジナリティから時代を超えた名車として長きにわたって愛されたが、2000年にその歴史に一度は終止符を打つことになったのである。
先代のデビューストーリーを新型もトレース
そして、2019年、20年近い年月を経て、新型カタナが登場した。今回の新型カタナが発売へとこぎ着けたそもそもの発端はイタリアのバイク雑誌『モトチクリスモ(MOTOCICLSMO)』が2017年4月に誌面でスタートさせたプロジェクトであった。現代のカタナを作ろうという企画で、その最終形が2017年のEICMA(ミラノショー)にてモトチクリスモ誌のブースに展示されていたKATANA3.0だ。デザインを手がけたのは、モトグッツィのグリーゾやトライアンフのタイガーをデザインしたロドルフォ・フラスコーリさん。そしてコンセプト車両の製作は、バイクの設計から試作、さまざまなテストも行なっているボローニャにあるエンジンズ・エンジニアリングが担当した。そして、このコンセプトモデルを見たスズキが市販化に向けて動き出したのである。ちなみに先代のGSX1100Sカタナもドイツのバイク雑誌『モトラッド(MOTORRAD)』の企画を元に生まれており、まさにそのストーリーをトレースしているというところは興味深い。
カタナはカタナ、独自のブランドとして育てていく
リスタートを切ったカタナストーリーだが、誰もが気になるのは、そもそもスズキにとってのカタナはどんな存在なのか? ではなかろうか。2019年春、京都にて行なわれた新型カタナの世界プレス試乗会の際に、チーフエンジニアを務めた寺田さんにその質問を投げかけたところ、次のような答えが返ってきた。
「カタナは昔からスズキが大事にしているブランドで、これからもスポーツのネイキッドではありますけれど、我々としてもどこかのカテゴリーに入れてしまうのではなくて、カタナというブランドとして育てていきたいと思っています」
さらにどのように発展させていきたいのかについては
「ライダーの高齢化が進んでいますが、ぜひ若いお客さんにも乗っていただきたいですし、カスタムを楽しんでいただけるといいなとも思っています。さまざまなアフターパーツメーカーさんにもカスタムパーツを出していただき、乗っていただく人が自分好みのカタナに仕上げていただくのもいいなと思ってます」と寺田さん。
すでに多くのアフターパーツメーカーがカタナ用パーツをラインナップに加えており、まだカタナストーリーの第2章は始まったばかりだけれど、その展開は大いに期待できそうだ。